究紹介

バイオ情報学研究室では、情報科学技術を駆使して、理論・実験の観点から、生物が長い進化により獲得した知恵を学び、それを応用することで、医療・環境など現代社会のもつ課題の解決を目指します。

シミュレーションによるタンパク質の機能発現機構解明(鷹野・齋藤)


 生物とはタンパク質・核酸・糖・脂質といった生体分子が動的に相互作用しあうことで生命現象を生み出す複雑なシステムです。その本質に迫るには生体分子が織りなすシステムを理解する必要となります。その中でもタンパク質は生命活動に必要なはたらきをする生体分子です。
 例えば、酵素とよばれるタンパク質は温和な条件で呼吸・光合成といった生命維持に欠かせない生化学反応を行っています。このような反応を通常の実験で行おうとすると、高温・高圧などの非常に危険な条件が必要となります。(優れた触媒
 また、免疫ではたらく抗体というタンパク質は病原体の出す物質など(抗原)と結合し異物を見わけるのですが、一つの抗体はある決まった抗原にしか結合しません。非常に高精度に抗原を区別することができます。(高い特異性
 このように、タンパク質はとても優れたはたらきをする分子です。そのはたらくしくみを理解するためには、「はたらく瞬間の姿」を見ることが重要になります。コンピュータシミュレーションには、現実に結果を確かめることが困難な「はたらく瞬間の姿」を理論的に追跡し、可視化することができるという他にない利点があります。そこで、私たちはコンピュータシミュレーションを用いて、「タンパク質のはたらく瞬間の姿」を見ることで、そのはたらくしくみを明らかにしようとしています。また、そのしくみを利用した新しいタンパク質や薬剤の開発を目指しています。
 具体的には以下の課題を実施しております。

  1. 分子動力学シミュレーションによる抗体のCDR-H3における構造安定性の解析
  2.  免疫とは異物の侵入に対して自己を防衛する生体反応です。免疫で大きな役割を担っているのが抗体です。抗体は抗原と特異的に結合することで異物の認識を行います。この抗原認識において重要になるのが、相補性決定領(Complementarity Determining Region: CDR)とよばれるものです。その中でもCDR-H3(H鎖の3番目のループ)は最も配列多様性が高く、構造も多様であることが知られています。本研究では、分子動力学シミュレーションを用いて、抗体のCDR-H3の構造安定性を調べ、抗体の分子認識機構を明らかにしようとしています。

  3. ヘムタンパク質の構造機能相関の解明に向けた網羅的理論解析(鷹野)
  4. ヘムタンパク質は電子伝達、物質運搬、生化学反応触媒、シグナル伝達と広範な生命現象に関わっています。しかし、個々のヘムタンパク質の研究が進展する中で、「なぜヘムタンパク質中でヘムがこれほど多様な機能の発現を可能にするのか?」といった問いに答えは未だない状況にあります。本研究ではシミュレーション技術と情報科学的技術を統合したアプローチにより、構造が判明している全てのヘムタンパク質の構造分類、ヘムの電子構造計算を網羅的に遂行し、ヘムタンパク質のタンパク質環境-ヘムの分子構造-電子構造-機能相関の解明を目指しています。

  5. 人工触媒(酵素)創製に向けた分子レベルでの酸化反応の機構解明(齋藤)
  6.  酸化反応は工業プロセスの3割を占める重要な反応です。この反応は生体内でも見られ、主に金属イオンを内包した酵素(金属酵素)が触媒としてはたらいています。金属酵素には、従来の人工的な触媒では困難な反応を、穏和な条件下で高い特異性・反応選択性で進行させられるという大きな強みがあります。どのように金属酵素がはたらくのかを理解することができれば、金属酵素の機能から着想を得た環境負荷の低い触媒(生体模倣触媒)を作ることが可能となります。つまり「生命のしくみを理解し、つかう!」ことは現代社会の抱えた環境問題の解決につながるわけです。
     私たちは計算機を用いた量子化学計算、シミュレーションによる分子レベルでの酸化反応の機構解明を課題とし、以下の3つの研究を行っています。(1)有機分子から金属酵素まで様々な酸化反応を素反応レベルで詳細に計算し、反応を促進させる重要な要因を解析しています。(2)同時に生体模倣触媒の計算も行い、金属酵素との反応性の類似点・相違点を調べることで、改善すべき点を議論しています。(3)また、より精確なシミュレーションを実行可能にするための既存の方法の改良、新規手法の開発にも取り組んでいます。


    LEDランプの演色性の研究(中野)


     照明光のスペクトル分布の違いにより,その照明下の物体の色の見えは変化します。照明の設計や照明を用いたディスプレイの設計では,どのような照明がよい照明といえるのかの判断基準が必要とされます。ここでは,照明光のスペクトルを任意に設定できるよう,マルチスペクトルカメラで物体の分光反射率を測定し,コンピュータのディスプレイ上にその照明下での色の見えを再現できる装置を開発し,照明の良し悪しを心理実験により評価を行う実験を行います。そのデータにもとづいて照明の新しい評価方法を提案します。



    病気の診断に用いるアミノ酸計測用バイオセンサーの開発(釘宮)


     臨床医療や予防医療の分野、食品製造・管理プロセスの分野において、アミノ酸分析装置を用いてアミノ酸の分析をその現場で行うことができれば、疾患の早期発見、疾病の計測、食品の鮮度測定や味付け、風味、味覚の計測など品質管理に極めて有効です。例えば医療分野において、アミノ酸濃度のバランス(アミノグラム)がメタボリックシンドロームや肝臓病、糖尿病、がん、アルツハイマーなどの病態において、健常な状態とは異なってくることは既に知られています。そして、個人の健康を管理するために家庭で健康状態が検査できるツールは予防医学的にも重要であることが認識されています。しかし、現状ではアミノ酸は大型の分析計でしか測ることができず、家庭での健康管理には適していません。
     本研究の目標は、上記のような分析を「その場」において特殊な技術や大型の装置を必要とせずに、迅速かつ簡便、安価に20種類のアミノ酸濃度を網羅的に計測することができる装置を開発することにあります。
     本研究が実現することで、一つの装置あるいは分析キットで複数の病態の診断が可能となり、また病気の早期発見や病態異常への早期対処が出来るため、患者のみならず健常な人の医療や食に対する安心・安全を実現し向上させることが可能になると考えられます。


    LED完全制御型植物工場に関する研究(香田)


      LED完全制御型植物工場は,光合成や花芽形成など,植物の生育に必要な波長の光だけを照射することができ,太陽光利用型植物工場に比べて,栽培期間を短くすることができる,植物の生育が良好であるなどの利点を有しています。また,LED照射によってビタミンなどの機能性成分が高濃度に蓄積することが知られており,薬効成分を高濃度に含む薬用植物の生産などに寄与できます。しかし,多額の初期設備投資や照明や温調のための電気代などの運転経費がかさむことが弱点です。当研究室では初期投資が安価なシステムの開発や省エネルギー型の照明装置の開発,栄養源の適切な計測・管理法の開発などを行っています。